ふたばの日記

高等教育や学術政策に関心がある大学生のブログです。考えたことのメモなど。

音楽教室における著作権料徴収問題

 友人に音楽関係者が多いということがあって、最近話題になっているJASRAC著作権料徴収問題に関心を持っている。Twitterのタイムラインではあれこれ発言をしているひとがいたりとか、FBでもいくつか関連するポストを見かけたるりするけれども、どうも地に足の着いた議論が弱いような印象が強い。ただ、そんなことを言っていられるのも、自分が部外者だと思っているからかもしれないし、JASRACの現実的な実務的問題性について知らないからかもしれない。だから、以下はそんな立場の人間からの見方だと思って読んでもらえればいいと思う。

 各種の議論に目を通してきたなかで、個人的にわりと落ち着いた議論がなされていると感じられるのが、以下の四つである。
JASRACの外部理事を務める東大・玉井克哉教授(知的財産法)による大手音楽教室から著作権料徴収についてのQ&A - Togetterまとめ
 この一つ目については、いくつか論理的に疑問を抱かざるを得ないところも散見されるけれども、JASRACの組織のあり方を内部から主張するものとして、しっかり把握しておく必要があるものだと思う。

JASRAC vs 音楽教室:法廷で争った場合の論点を考える(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース
音楽教室とJASRAC: benli
還元の要否に関する原則と例外: benli
 この二~四つ目については、JASRACが音楽教室の指導において著作権を徴収することが妥当であるかについて、法的に吟味しているいい文章であると思う。

望ましいと思う議論のプロセス

 それでは、どのようにこの問題を見ていくのがいいかと考えると、まず現行法における理論的妥当性を吟味して、法的に妥当でなければ話はそこで終わりだし、妥当であれば実務的な妥当性を吟味して、実務的に問題があるならば方法を再検討して、理論的にも実務的にも妥当であるけれども、文化保護などの側面で問題があるならば、現行制度の変革を検討するというプロセスで進めればいいのだと思う。こんなことを言うのも、理論的妥当性及び実務的妥当性を考慮せずに、ただ反射的に反対を叫ぶのは、時間の無駄であるし長期的に見て音楽文化の保護にはつながらないと考えるからである。

現行法における理論的妥当性 現行法における実務的妥当性 文化保護問題 対策
× 徴収不可
× 方法の再検討
× 文化保護のための対策の検討
問題なし

×→妥当性なし、問題あり

(1)現行法における理論的妥当性

 この観点から吟味されるべきなのは、著作権法上の規定から、音楽教室から指導における著作権行使に対して著作権料を徴収することが理論的に妥当かどうかである。例えば、音楽教室が非営利活動に当たるのか、指導において著作権を行使しているのか、などである。
 前者については、確かに財団法人等の非営利組織は検討が必要なものの、株式会社のものについては擁護はできないだろう。後者については、まず楽譜における著作権(これは複製権の範疇である)に演奏行為が含まれないのは当然だろう。音楽教室での演奏を著作権法上の「聴衆」への演奏と規定できるかは難しい点である。教室では演奏行為に対してではなく指導に対して営利活動を行っていると言われたとしても、その指導の中身に演奏行為が含まれている以上、演奏行為に対して営利活動を行っているとみなすのが妥当であるように思う。ただ、断片的な演奏を演奏をみなせるのか、あるいは「引用」行為とみなすことはできないかなどは検討が必要である。
 法的に著作権の行使が認定できないのであれば、そもそも問題は起こり得ないのであって、まずは理論的な吟味が必要である。

(2)現行法における実務的妥当性

 理論的には妥当であるとしたら、次にそれが実務的に妥当であるのかという点が考慮されるべきであろう。これは、例えば2.5%の定率徴収が妥当であるのか、徴収をしたものの還元が適切に行われているのかどうか、組織活動に対するコストが適切な水準に留まっているかどうか、などである。色々と悪い噂は聞くわけではあるが、JASRACは零細な、個々レベル権利の行使が困難な権利者が組織化することで権利の行使を担保していることはしっかりと認識されるべきであって、法的に妥当な行為を行っている限りでは倫理的に批判する(例えば「音楽教室から著作権を徴収したら音楽文化を破滅させる」という主張)のは筋違いであるように思う。これは(3)で述べる。

(3)制度変革の検討

 理論的に妥当であり、かつ実務的も妥当であるけれども、それが文化的に問題をきたすというならば、制度変革を検討すればよい。例えば、フェアユースを規定するなどである。この時、部分最適ではなく全体最適を考えることが重要であるように思う。音楽教室から著作権料を徴収することが音楽文化を衰退させると思われるとしても、もしかしたら著作権料の支払いをしないことで音楽教室はその分を自分の利益に転嫁しているのかもしれないし、あるいはそもそも音楽教室から著作権料を徴収することによって音楽文化が衰退するとしたら、それは非営利組織における音楽文化活動が貧弱すぎるのが理由なのかもしれない。
 最近は音楽でも、活字でも、ゲームでも、あらゆるコンテンツで著作権が問題になっている。同人誌文化を見る限りでは、ある意味では著作権の行使が曖昧であるからこそ文化が活性化されるという側面もあるかもしれないが、まともに創作活動を行っているひとにその対価が行き渡らないのは由々しき事態である。音楽文化は大切だと思っているからこそ、全体の制度、環境としてどうすれば全体最適になるのかという観点から議論が深められてほしいと考えている。