ふたばの日記

高等教育や学術政策に関心がある大学生のブログです。考えたことのメモなど。

AIが人間の仕事を奪う?論文について

1.はじめに

 最近、「AIによって○○年後に○○%の仕事が失われる」としばしば語られる。多くの機会で枕詞のように語られるこれは、わかりやすくセンセーショナルな主張にすぎないと思っている。それに応じて、学生のキャリアについて語るときに、「○○年後には○○%の仕事が失われるんだ、では君たちはどうやって生きていく?」というフレーミングがされる。確かに、そのように考えることの重要性を全否定するわけではないが、この前提が問われることがないことには非常に違和感を抱く。誤った前提に基づいて導き出される結論は、当然誤ったものになるのである。そこで、今回はこうした主張が行われるもととなった論文を確認することにした。

2.対象論文について

 私の確認した限りでは、こうした議論の発端になったのは、オックスフォード大学のCarl Benedikt FreyとMichael A. Osborneの論文、‘The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?’のようである。これは、2013年に発表されたのであるが、いわゆる学術雑誌の論文ではなく、一般向けに報告書として公開されたものだ。全72ページではあるが、末尾は検討された職業の一覧であり、本文は45ページ分である。

2.1.データ

 分析に利用されたデータは、まず米国労働省のO*NETのデータである。これは、903の職業について詳細な記述がされている。それに加えて、労働省のStandard Occipational Classification(SOC)も利用している。こちらの方は、賃金データ等も揃っている。この論文においては、双方が対応するものにデータを限定して、702の職業を分析対象にしている。

2.2.分析方法

 論文の分析は、(1)教師データの選定、(2)モデル化、(3)モデルの適用の三段階で行われている。

(1)教師データの選定

 まず、機械学習の研究者とともに、機械で代替可能/不可能であると確信を持てる70の職業を主観的に判断する。機械で代替可能ものを1、不可能なものを0とし、これはO*NETのJob Disctiptionにもとづいて判断された。

(2)モデル化

 "Perception and Manipulation"、"Creative Intelligence"、"Social intelligence"の3つを機械化にあたってのボトルネックだと定めた上で(p. 24)、データから3つのボトルネックに対応する変数を抽出する。 f:id:futaba_szk:20170222175057j:plain 出典:p. 31

 そして、教師データとした70の職業について、上記の変数と機械の代替可能性(0 or 1)が対応するようなモデルを設計する。

(3)モデルの適用

 上記のモデルを、702の職業全体に適用する。分析結果は、0-0.3をLow、0.3-0.7をMedium、0.7-1.0をHighに分類すると、それぞれ33%、19%、47%で、ここから代替される可能性のある職業が47%と言われた。 f:id:futaba_szk:20170222175217j:plain 出典:p. 37

3.分析結果をどう見るか?

 このように、論文を詳細に見てみると、いくつか解釈の余地があると感じられる。

3.1.データの問題

 まずは、データの問題である。分析対象になっているのが、O*NETの903の職業のうちの702であるが、職業へのインパクトを考えるのであれば、職業数ではなくその比重も考えなければならない。そもそも903と702で、除かれた職業が労働者が極めて多いものであるのかもしれないし、分析対象になった703のうちでもそれは注意すべき点である。すなわち、702の職業のうち47%で機械による代替可能性が高いからといって、47%の労働者が代替可能性の高いものであるとは言えないのである。
 次に、分析に利用した変数の妥当性が気にかかる。個別の変数と代替可能性の散布図を見てみると、以下のようになる。 f:id:futaba_szk:20170222175202j:plain 出典:p. 35
 もちろん、単純に線形相関をすると考えるのは正しくないのであるが、個人的には下3つの散布は気になる。そこで、下の3つ、"Perception and Manipulation"(知覚と操作)にあたる変数を詳細に見てみると以下のようになる。

O*NET 変数 O*NETの記述
指の器用さ 非常に小さな物体を掴む、操作する、あるいは集めるために片手または両手の指を精密に調和させて動かす力
手の器用さ 物体を掴む、操作する、あるいは集めるために片手や、片手と腕、両手を素早く動かす力
窮屈な労働空間、不格好な姿勢 その仕事では不格好な姿勢になることを強いる窮屈な労働空間で働くことをどれくらい要するか

出典:p. 31より作成

 なんというか…よくわからない。とりわけ、3つめなどよくわからない。"Creative Intelligence"や"Social Intelligence"の内容はまあ理解できるのだが、上記の"Perception and Manipulation"にあたる3つに関しては、なぜこれを機械の代替可能性の指標とするのだか、はっきり言って理解しがたい。

3.2.結果の解釈について

 この論文における結論は、あくまでも現状の702の職業カテゴリのうち、47%では機械による代替可能性が高いというものにすぎない。まず言えるのは、その職業区分が妥当かということである。単純に考えて、1つの職業区分には、代替可能性が低いとされたものでも、機械に代替できるような作業は含まれているだろう。すると、職業単位で代替されそう/されなさそうと考えるのもいいが、職業区分内で部分的に機械化がされるかもしれないという観点から考えることもできる。
 次に、これまでも職業は新たな技術によって代替されてきた。その当たり前のことを念頭に置く必要がある。そしてその時に起こったのは、新たな技術に合わせて新たな職業が生まれてくるということである。AIの場合はこれまで以上に機械化の速度が早いということも考えられるが、単純に数値だけを見て悲観的になるのは不適切だと思われる。

4.最後に;「AI vs 人間?」

 AIが仕事に影響を与えるのは間違いないであろうと思われるが、しかし、「AI vs 人間」というフレーミングは間違っていると考えている。AIには汎用AIと特化型AIと呼ばれるものがあるが、現状の技術は特化型のものに過ぎず、人間の与えたアルゴリズムの制限ないの最適化装置とみなすのが適切であろう。そうすると、AIにどういう分析を出力させるか、あるいはその結果をもとに人間がいかに判断するかということがしばらくの要点になる。そういった状況においては、結局「丸腰の人間 vs AIで武装した人間」というフレームで今後の世界を考えていくのが適切であると考えている。