ふたばの日記

高等教育や学術政策に関心がある大学生のブログです。考えたことのメモなど。

Times Higher Education / Benesseと日本大学ランキング

 高等教育の関係者であれば既に耳にしたことかと思うが、THEがベネッセと協力をして行った日本版大学ランキングの結果が3月30日に発表された。とりあえず確認しておかなくてはと思って細かく見てみたのであるが、ところどころ気になる点が見つかった。そこで、そうした点を簡単にまとめておこうと思う。

1.THEとランキングビジネス

 まず、日本大学ランキングの英語版ページを確認してみると、「日本大学ランキングの計算はPwCという専門企業による独立の監査を受けている」と記述してある。あまり本筋とは関係ないが、こうしてランキング導出の客観性を担保しているらしい(だからといって恣意的な操作ができないわけではないだろうが)。個人的にほうほうとなった。
 その下部には、「大学のTHEにおけるグローバルな地位を上げるにはbranding@timeshighereducation.comまで」、「THEのランキングの背景にあるデータを知り、様々な分析・比較ツールを利用したいならdata@timeshighereducation.comまで」と書いてある。つまり、THEはランキングの背景にあるデータ分析をブラックボックスにして、そのデータとベンチマークを活用したコンサルティングビジネスを行っているのである。

2.日本版ランキングの評価指標

 では、ランキングの評価指標の妥当性について細かく検討してみよう。なお以下の記述は、日本大学ランキングの日本語ページ及び日本大学ランキングの英語版ページを参照している。  まず、ランキングの評価指標は、4つの領域に対して11の指標となっており、その内訳は以下の通りである。

領域 指標
A.教育リソース(38%)
どれだけ充実した教育が行われている可能性があるか
(1)学生一人あたりの資金(10%)
(2)学生一人あたりの教員数(8%)
(3)教員一人あたりの論文数・被引用回数(7%)
(4)大学合格者の学力(6%)
(5)教員一人あたりの競争的資金獲得数(7%)
B.教育満足度(26%)
どれだけ教育への期待が実現されているか
(6)高校教員の評判調査:グローバル人材育成の重視(13%)
(7)高校教員の評判調査:入学後の能力伸長(13%)
C.教育成果(20%)
どれだけ卒業生が活躍しているか
(8)企業人事の評判調査*1(7%)
(9)研究者の評判調査(13%)
D.国際性(16%)
どれだけ国際的な教育環境になっているか
(10)外国人学生比率(8%)
(11)外国人教員比率(8%)

表1:ランキング評価指標一覧(日本版サイトより筆者作成)

 データについては、

ランキングのデータは様々な情報源に基づいている。それらには、エルゼビア、ベネッセ、日経HR、日本政府及びTHE学術評判調査が含まれる。我々のデータは、大半の場合で標準化されており、それによりそれぞれの指標に与える数値を他の指標と適切に比べることができる。
Japan University Rankings 2017: methodology | THE Rankings

とされている。このほか、細かい評価方法は日本語版ページには記述がないところまで上記の英語版ページに記述されているため、適宜英語版ページを参照する。

 また、「今回のランキングでは全ての大学にデータ提供を依頼、協力した435校を評価対象とし、その中から150校の総合ランキングを作成した。さらに、評価指標の4つの分野それぞれについても150校をランキングした結果、計298校の大学名を世界に発信することができた」とされている。(「THE大学ランキング 日本版」、次年度は学生調査の導入をめざす | 大学改革を知る | Between情報サイト)基本的にランキングの上位にランクすることによる威信獲得の可能性がある大学は全て参加しているだろうが、現存の777大学のうち評価対象は435に過ぎないのは注意が必要かもしれない。

 ではここから先は、それぞれの評価指標について細かく見ていく。

2.1.教育リソース(38%):どれだけ充実した教育が行われている可能性があるか

(1)学生一人あたりの資金(10%)

 一般に大学の役割は教育/研究/社会貢献の3つと言われている。大学の資金はこれの3つに投資されるのであるが、このうちどの程度の割合が教育に投資されているのかを計算することは極めて困難である。そこで、全体の資金を学生数で割ってみるわけであるが、この指標がどれだけ適切であるのかは明らかではない。

(2)学生一人あたりの教員数(8%)

 教育の質の代理指標としてはある程度の意味を持つと思いながらも、大学によってはセンター等で研究専任の教員を多く持っている場合があり、単純に学生/教員比率が実際の教室における学生/教員比率を表しているわけではない。履修者総数/講義数を計算したらより適切な値が算出できそうな気がするが、計算の手間がかかりすぎてしまうだろう。

(3)教員一人あたりの論文数・被引用回数(7%)

 情報源についての記述を見るに、恐らくこれはエルゼビアのScopusに基づいて算出されていると思われる。Scopusには日本の学術雑誌はほぼ再録されていないし、日本の書籍など全くないと言っていいと思われる。英語圏の英語による学術雑誌を基本にした医学や生物学等の分野ではそれでも問題はないが、日本の大学の研究力全体を考える際には、不適切な指標だと考えられる。

(4)大学合格者の学力(6%)

 おそらく進研模試の偏差値データを活用していると思われる。推薦入試の割合を高めて一般入試の偏差値を高める偏差値ハッキングなどはよく知られるところで、偏差値のランキングがどれだけ適切なのかは疑う余地がある。また、進研模試の受験層として高学力層が抜けているのではないかというのは、駿台全国模試や河合塾全統模試と比べた進研模試の位置づけとして推測できる。

(5)教員一人あたりの競争的資金* 獲得数(7%)

内閣府ホームページ「競争的資金制度」に掲載のある「平成27年度の制度一覧」のうち、文部科学省が主管している競争的資金制度を対象とした。
 これはまあある程度適切な指標であるように思う。

 教育リソースを元にランキングを並べてみると、医科系単科大学が上位に来ることがわかる(例えば医科歯科大学がトップに来る)。これは、医科系の分野は基本的に一つ一つの研究にそれなりの資源を投ずる必要があるため、科研費等の競争的資金の獲得数が多く、その単価も多いなどの要因が作用していると考えられる。また、算出の方法が不明であるので正しくはわからないが、病院の医師が教員数のなかに含まれている可能性もあるのではないかと思う。

2.2.教育満足度(26%):どれだけ教育への期待が実現されているか

(1)高校教員の評判調査*:グローバル人材育成の重視(13%)

*(株)ベネッセコーポレーションが高等学校の進路担当教員を対象に「大学に関する印象調査」を実施。卒業生からさまざまな情報を集めて多くの高校生に進学のアドバイスをしている進路担当教員の意見により、見えにくかった大学生の満足度を推し測ることができる。
 教育満足度の評価として、グローバル人材でいいのだろうか。仮に良いとして、高校教員に本当にそれを判断する能力が備わっているのだろうか。

(2)高校教員の評判調査:入学後の能力伸長(13%)

 能力伸長という観点を設けたことは評価できる。というのは、大学教育の成果は入学時点の能力と卒業時点の能力の差分で評価されるべきだと考えるからである。しかし、問題は高校教員にそれを判断する能力があるのかということである。普通に考えて、まず自分が担任をした学生でなければ卒業時の能力を把握しているなんてありえないし、仮に把握していたとしても自分の担当の教科に限られるだろうし、ましてや大学卒業時の能力を把握しているなどありえないと言っていいのではないだろうか。

 なお、この調査は「2400の高校の進路指導担当」に対してそれぞれ「上位の15の大学を挙げる」という形式で行われている。この評価は大学のネームバリューや自分がお気に入りだと思う学生のイメージなどによってバイアスをもたらすことが容易に推測され、指標としての頑健性はあまり期待できないように思う。

2.3.教育成果(20%):どれだけ卒業生が活躍しているか

(1)企業人事の評判調査*1(7%)

*1(株)日経HRによる「企業の人事担当者から見た大学のイメージ調査」。卒業生の活躍を多面的に評価。
 卒業者の人数や大学のネームバリューによるバイアスがかかるのが推測されるのは言うまでもない。

(2)研究者の評判調査*2(13%)

*2「THE世界大学ランキング」において高等教育機関研究者を対象に「教育力の高い大学」を調査。
 世界の高等教育機関において、どれだけ日本の大学卒業生が認知されているのかが謎である。サンプル数が少ないならば、適切な判断を行うことはできないだろう。

2.4.国際性(16%):どれだけ国際的な教育環境になっているか

 個人的にはこの点が一番気に食わないところで、英語版ページでは領域名が「Environment/環境」であり、その説明として「それぞれのキャンパスにおける学生と教職員集団の構成」を見るものであり、「学生が多様で協力的で包含的な大学環境のもとにいられるかを判断する手助けになる」とされている。この観点自体は大切だと思うものの、それを判断する指標が以下の二つで良いのかと思われるのである。

(1)外国人学生比率(8%)

 外国人留学生を日本人で定員が充足できないがために入れるということを行っている大学も一定数あるのではないかと思われる。アメリカにおいても中国人留学生が増えすぎて授業が成り立たなくなるということは以前から問題化しており、単純に外国人学生比率が多いのが教育の環境の良さを示すわけではないこともある。

(2)外国人教員比率(8%)

 この点について詳細はわからないが、「外国人教員」の定義はどうなっているのだろうか。外国籍であるなら問題はないが、外国で学位を取った日本人を増やすことで定義上外国人教員を増やすことは日本の大学改革においてしばしば行われてきたことである。

3.全体を通して

3.1.総合指標の意味の無さとランキングビジネス

 はっきり言って、こうしたランキングで総合指標を見ることは何の価値もない。あるいは、学部や学科単位ならまだしも、大学という単位で見ることは意味がない。そもそもそれぞれの指標の信頼性が十分なものではないし、ましてやそれを合成する正当性などない。いくら標準化をしたからと言っても、どういう方法で標準化したのかはわからないし(例えば立命館アジア太平洋大学は国際性領域で100.0のスコアであるが、それがどう計算されたのかはわからない)、それぞれの指標をどのように重み付けするかは恣意的なものでしかない。しかし、そんなとんでもない数値化を、あたかも実態があるかのように扱われてしまうという恐ろしい時代になってしまった。
 計算がブラックボックスにおかれているには理由があって、冒頭に述べたように、そのブラックボックスの数値と他組織間比較の分析ツールを提供することで、大学へのコンサルティングをビジネスにするのである。個別的なそれぞれの指標とその比較は個々の大学の位置づけを認識するために有用であろうが、こんな使われ方をされるくらいなら、もう大学教員は一致団結してランキングサボタージュを行った方が良いのではないかとも思えてくる。

3.2.ベネッセのしたたかさ

 上と同時に感じたものが、ベネッセのしたたかさである。日本語版ページは「THE世界大学ランキング 日本版|日本の大学の教育力ランキング」となっており、ページ下部に薄い色で小さくBenesse Corporationと(ほとんど見えないように)書いてある以外は、基本的にベネッセは影が薄い存在となっている。THEのパートナーとしてランキングを発表しているにも関わらずである。
 しかし、ランキングに位置する大学は(あるものは)ベネッセマナビジョンにリンクされており、そこから資料請求ができるようになっている。おそらく、資料請求をすることによって大学から広告掲載料が入るのであろう。それに加えて、メニューとして「実践事例・ピックアップ」というものが何気なく含まれている。これはどう考えても広告掲載であろう。
 ということで、ぼんやりとしていると気配を感じさせないものの、さり気なくランキングから派生する広告を仕込んでいる。もちろん営利企業なのだから当然のことではあるが、したたかなものよと感心させられたものである。