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ふたばの日記

高等教育や学術政策に関心がある大学生のブログです。考えたことのメモなど。

"イノベーション"の定義について

科学技術政策

曖昧な「イノベーション

 イノベーションイノベーションイノベーション、…、最近ではこの言葉があちらこちらに溢れている。科学技術政策の統括を行う、内閣府の「総合科学技術・イノベーション会議」においても、会議の名称にこの言葉が含まれていることから分かるように、「イノベーション」が重要視されている。確かに、日本が近年の新産業創出の波に乗り切れていないのは、世界の企業の時価総額ランキングの上位を新興IT企業が占めていることから示唆されることである。そして、人口構造の変化やアジア等の国家の躍進から日本の相対的地位が低下していくなかで、新産業創出が重要になってくるというのも確かである。しかし、これは本当に「イノベーション」で解決できる問題なのだろうか?

 正直、おそらくその見立ては間違っていないように思う。しかし、そういった議論が非常に胡散臭く感じてしまうのは、「イノベーション」という言葉があまりにも雑に使われ過ぎているからではないだろうか。「イノベーション」といえば、アップルがまず挙げられる。確かに、iPhoneは「イノベーション」と言っていいだろう。しかし、かつてのトヨタの「カイゼン」も「イノベーション」に含まれて良いのではないか。AmazonAmazon Dash Buttonを聞いたとき、これは非常に革新的であるとに感じた。これも「イノベーション」に含んでいいだろう。(この話は「Amazon Dash Buttonは何がヤバイのか – ところてん – Medium」を読んでなるほどとなった。)しかし、これら全てを同じ「イノベーション」という言葉で規定するは、雑な用語法だと感じないだろうか。

 要するに、「イノベーション」はもう少し類型化して捉えるべきだと思うのである。そして、それの総称として「イノベーション」という言葉を利用する。個別の議論においては、類型を念頭に置いた上で議論を積み重ねていかないと、生産的な議論にはならない。

NISTEPの4つの「イノベーション

 そんなことを考えていたときに、文部科学省科学技術・学術政策研究所第1研究グループによる『第4回全国イノベーション調査統計報告』という報告書を目にした。そのなかの「イノベーション」の4つの分類が、自分にとって非常に納得感のあるものであったため、下に引用しておく。

「プロダクト・イノベーション

 プロダクト・イノベーションとは、技術仕様、部品・材料、組み込まれているソフトウェア、使いやすさ、又は他の機能的特性といった点について、新しい又は大幅に改善された製品(商品)又はサービスの市場への導入を意味する。本調査でのプロダクト・イノベーションは、自社にとって新しいものと定義し、必ずしも市場にとって新しい必要はない。また、プロダクト・イノベーションには、新しい知識又は技術の活用のみならず、既存の知識又は技術の新たな利用や組み合わせに基づくものを含んでおり、既存の製品及びサービスであっても、機能的あるいはユーザ特性の点について、新しく又は大幅な改善があれば、それらはプロダクト・イノベーションに含まれる。しかしながら、製品の機能的特性あるいは用途の点で大幅な変化を伴わないデザインの変更や、ルーチン化されたアップグレードあるいは定期的・季節ごとに行われる変更は、プロダクト・イノベーションに含まれない。

「プロセス・イノベーション

 プロセス・イノベーションとは、新しい又は大幅に改善された生産工程又は配送方法の自社内における導入を意味し、技法、装置(機器)及びソフトウェアに関する大幅な変化もその対象とする。ここで、生産工程とは、製品やサービスの生産(提供)に用いられる技法、装置(機器)及びソフトウェアを指している。一方、配送方法とは、企業のロジスティクスに関係する方法であって、投入物を調達するための装置(機器)、ソフトウェア及び技法のみならず、企業内での物品の割り当て、あるいは最終製品の配送を含んでいる。本調査でのプロセス・イノベーションは、自社にとって新しいものであると定義し、自社が必ずしもこのプロセスを導入した最初の者である必要はない。また、プロセス・イノベーションは、付随的な支援活動(例えば、購買、会計、コンピュータ処理、メンテナンス)における新しい又は大幅に改善された技法、装置(機器)及びソフトウェアにも及ぶ。なお、本調査でのプロセス・イノベーションは、1単位当たりの生産コスト又は配送コストの減少、質の向上、若しくは新しい又は大幅に改善された製品又はサービスの生産あるいは配送、といった成果が意図されたものである。

マーケティングイノベーション

 マーケティングイノベーションとは、製品又はサービスのデザイン又は包装の大幅な変更、販売経路、販売促進方法、あるいは価格設定方法に係る新しいマーケティング方法の自社内における導入を意味する。ここで、製品又はサービスのデザイン又は包装の大幅な変更とは、製品又はサービスの機能性やユーザ特性の変更を伴わない形態や外見に関する変化を指している。販売経路とは、フランチャイズ・システム、直売・排他的販売、ライセンシング等の製品又はサービスの販売方法に関係する方法であって、輸送、保管及び取扱い(ハンドリング)といったロジスティクスに関する方法は含まれない。販売促進方法とは、製品又はサービスの販売促進に関する新しい概念(コンセプト)の活用であり、異なる媒体又は手法(例えば、映画やテレビ番組での製品及びサービスの露出、著名人による使用、新しいブランドの構築、ポイントカード等の個人向け情報システム)の初めての活用を指している。価格設定方法とは、製品又はサービスの販売に関する新しい価格戦略を指し、例えば、需要によって変動する価格設定やウェブ上での顧客の好みの製品仕様に応じた価格設定がこれに当たり、消費者のセグメントに応じて単に異なる価格を設定することは対象としない。また、定期的又はある一定の周期で行われるマーケティング手法の変更は、マーケティングイノベーションには含まれず、すでに自社内の他の製品で活用された概念(コンセプト)に基づくデザイン又は包装の変更や、地理的に新しい市場又は新しい市場セグメントの開拓のために行われた既存のマーケティング方法の活用は、マーケティングイノベーションに含まれない。

「組織イノベーション

 組織イノベーションとは、企業の業務慣行、職場組織又は社外関係に関する新しい方法の自社内における導入を意味している。ここで、業務慣行における組織イノベーションとは、業務の遂行に関するルーチンや手順を組織化するための新しい方法に関するものであり、企業内における学習や知識共有を促す新しい慣行の実施を含んでいる。例えば、知識の体系化(例えば、ベストプラクティスや講習等のデータベース化)や従業員への啓発や労働者の定着に向けた取り組み(例えば、教育、訓練システム)、製造全般又はサプライ・オペレーションに関する経営管理システム(例えば、サプライ・チェーン・マネジメントシステム、ビジネスリエンジニアリング、リーン生産、品質管理)がこれに当たる。職場組織に関するイノベーションは、従業者への意思決定権限の移譲や従業者による提案の奨励といった企業活動(組織単位)内及び企業活動(組織単位)間での業務分担に係る従業者間での責任又は意思決定の割り当ての新しい方法に関係している。社外関係に関する新しい方法は、他の企業又は公的機関との関係を構築するための新しい方法に関係している。例えば、研究機関又は消費者との新たな連携、サプライヤーとの統合に関する新しい方法、製造・調達・物流・求人・付帯サービスのアウトソーシングや下請けがこれに当たる。本調査での組織イノベーションは、経営戦略に基づいて実施された組織に係る新しい方法の導入であって、自社内で既に実施済みの方法は含まれない。また、合併や買収は、それが企業にとって初めて実施されたものであっても、組織イノベーションには含まれない。

地に足のついた「イノベーション」論に向けて

 上の報告書では、イノベーションを「プロダクト」、「プロセス」、「マーケティング」、「組織」の4つに類型化している。iPhoneはプロダクト、トヨタカイゼンは組織、Amazon Dash Buttonマーケティングに該当するだろう。これらを分けて認識することには、非常に納得感がある。細かく言えば、例えばプロダクト・イノベーションの「自社にとって新しいものと定義し、必ずしも市場にとって新しい必要はない」という記述は、対象を広く取りすぎてしまうのではないかという懸念はあるものの、4類型としてイノベーションを捉えること自体の有用性は損なわないだろう。類型化をして分析的に捉えることは、議論を複雑にしてしまう可能性はある。とはいえ、様々な要素を含むものを雑駁に議論することで有用な知見が創出されるとは思わない。他の議論においても、納得感のある適切な分析概念のもとで議論が進められて欲しいものである。

参考文献:文部科学省科学技術・学術政策研究所第1研究グループ[2016]『第4回全国イノベーション調査統計報告』(NISTEP REPORT No. 170), pp. 55-56.